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名古屋地方裁判所 昭和63年(ワ)1949号 判決 1992年3月18日

反訴原告

伊藤良二

原告

伊藤禎彦

被告(反訴被告)

竹村春子

ほか一名

主文

一  反訴被告(被告)らは、反訴原告に対し、連帯して金二〇〇万七一五二円及びこれに対する昭和六二年一月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴原告のその余の請求を棄却する。

三  被告(反訴被告)らは、原告に対し、連帯して金一八八万八七三六円及びこれに対する昭和六二年一月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、両事件を通じてこれを四分し、その一を反訴原告の、その一を原告の、その余を反訴被告(被告)らの各負担とする。

六  この判決は、第一項及び第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

反訴被告らは、反訴原告に対し、連帯して金三三三万九三九一円及びこれに対する昭和六二年一月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

被告らは、原告に対し、連帯して金五二六万七八一八円及び内金四九六万七八一八円に対する昭和六二年一月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、反訴原告及び原告が次の交通事故(以下「本件事故」という。)の発生を理由に、反訴被告(被告)竹村春子(以下「被告春子」という。)及び反訴被告(被告)竹村康(以下「被告康」という。)に対し、民法七〇九条及び自賠法三条に基づき損害賠償請求をする事案である。

一  交通事故の発生(当事者間に争いがない。)

1  日時 昭和六二年一月四日午後五時四〇分ころ

2  場所 津島市天王通り四丁目一六番地

スーパーマーケツトサワムラヤの駐車場

3  加害車 被告春子運転の普通乗用自動車(名古屋五八ゆ四一五二)

4  被害車 反訴原告運転の普通乗用自動車(名古屋五四ろ八六二九)

5  態様 後退走行した加害車の右後部が停車中の被害車右側面後部に衝突したもの

二  責任原因(当事者間に争いがない。)

1  被告春子は、後方不注視の過失により本件事故を起こしたものであるから民法七〇九条により損害賠償責任を負う。

2  被告康は、加害車を保有する者であるから自賠法三条により損害賠償責任を負う。

三  争点

1  反訴原告の受傷及び治療の必要性、相当性

(反訴原告の主張)

反訴原告は、本件事故により、外傷性頸部、腰部症候群の傷害を負つた。

昭和六二年一月五日から同年一〇月二八日まで三愛接骨院に通院した。

昭和六二年一月七日から同年一二月一五日まで加藤外科医院に通院し、同日症状が固定した。

(被告らの主張)

本件事故は加害車が微速で後退中、被害車に軽く衝突したにすぎず、これによつて反訴原告主張の傷害は発生していない。

仮に発生しているとしても、これに対する治療は漫然と続けられた不必要、不相当なものであり、したがつて、本件における治療は、本件事故と相当因果関係がない。

2  反訴原告の後遺障害の内容、程度

(反訴原告の主張)

反訴原告の傷害は、昭和六二年一二月一五日に症状が固定し、腰部右側より臀部大腿にかけての圧痛、腰の屈伸不充分等の後遺障害(自賠法施行令二条別表の一四級該当)が残つた。

(被告らの主張)

反訴原告のいう後遺障害の内容は他覚的所見に乏しい。したがつて、反訴原告に自賠法施行令二条別表該当の後遺障害は存しない。

3  反訴原告の損害額全般

4  原告の損害額(特に、営業上の逸失利益)

(原告の主張)

原告は、損害保険の代理店を経営し、反訴原告を使用人として業務を営んでいるが、原告は名目上の店主にすぎず、実質上の経営、営業活動は反訴原告が行なつてきた。本件事故により反訴原告が受傷し、代理店業務ができなくなつた結果、原告に営業上の損害が生じた。

(被告らの主張)

原告に営業上の損害はない。仮に損害があるとしても間接的な損害にすぎず、本件事故による損害とはいえない。

第三争点に対する判断(成立に争いのない書証、弁論の全趣旨により成立を認める書証については、その旨記載することを省略する。)

一1  甲四、甲五の一ないし二五、乙七、乙八、乙一七、証人加藤士郎及び反訴原告本人によれば、反訴原告は、本件事故日から三日後である昭和六二年一月七日、加藤外科医院での診察で外傷性頸部、腰部症候群と診断され、右同日から昭和六二年一二月一五日まで同医院に通院し(通院実日数二〇一日)、投薬の他、消炎鎮痛処置、低周波治療等を受け、右同日、頸部については治癒、腰部についても病状固定している旨の診断を受けたこと、また、反訴原告は、右医院での診療に併せて、同年一月五日から同年一〇月二八日まで三愛接骨院に通院し(通院実日数八七日)、電気治療や整体治療を受けたことが認められる。

2  ところで、甲二、甲四、甲五の一ないし二五、甲一二、乙七、乙八、乙一三、乙一七、証人加藤士郎及び反訴原告本人並びに弁論の全趣旨によると、

(一) 本件事故は、被害車を運転していた反訴原告が駐車場内に停車した車内でシートベルトを外していた際、同車の右やや後方部に、低速でバツクしてきた被告春子の運転する加害車の右後部角付近が衝突したものであり、その衝撃により、被害車の移動はなかつたが、被害車は右側面後部凹損の、加害車は右後部角破損の各損傷が生じたものの、その損傷程度はそれ程大きなものではなく、事故現場において、被害車の修理費用は被告春子側で負担するとの話合いができ、警察に事故の届出もしなかつた。しかしながら、被告春子は、翌五日、保険会社から届出の指示を受け、反訴原告を伴つて警察に出向き、改めて事故届をしたのであるが、警察では、車両の損傷程度を確認したのみで物損事故扱いをし、反訴原告は、警察官にも被告春子に対しても、本件事故により受傷したとの申告は全くしていない。ところが、反訴原告は、事故当日の夜から既に首、腰が痛くなり、翌五日には歩行も困難になつたとして、警察に出向く前に三愛接骨院での診療を受けている。

(二) 反訴原告は、昭和六二年一月七日、頸部及び腰部の痛みを訴えて加藤外科医院の診察を受けたのであるが、同医院の診断は、頸部、腰部に運動制限が少々あり(部位、程度は不明)、神経学的には腱反射にやや亢進がみられるも、外見上は創傷も腫脹もなく、症状は軽度で全治三週間程度であるが、反訴原告が症状を訴え続けると更に長引くことはあるというものであつて、レントゲン等の検査もなく、塗り薬、消炎鎮痛剤、胃薬、筋弛緩剤の投与だけの診療であつた。反訴原告は、その後同年一二月五日まで、毎月一〇日ないし二〇日前後の通院を続けて前記医院での診療を続けてきたものであるが、その間に他覚的所見はほとんどみられず、治療内容は、専ら反訴原告の主訴に対する対症療法の域を出ず、同年五月頃までは初診時と同様の消炎鎮痛剤、胃薬、筋弛緩剤の投与と頸部、腰部の湿布が続き、その後は腰部の湿布のみになつており、診療記録上も症状の増悪が窺える記載もなければ、症状の改善についての記載もないなど、症状の経過の記述はほとんどない(同年一一月五日付の診断書には軽快しつつあるとの記載がある。)。加藤外科医院は、同年六月一六日付で反訴原告の保険代理業としての日常業務の不能期間は同年二月七日までの三三日間である旨の証明書を出しているが、同年一二月一五日付の診断書では、「起立時、臥位時共に持続痛が腰部、右下肢、臀部にかけてある。時に激痛となり、生活に支障を来す。自動車運転、歩行が困難になる。」(自覚症状)とあり、また、他覚的所見であるとして「腰部の右側より臀部、大腿部にかけ圧痛あり、腰の屈伸が不十分である。」旨を記載している。しかし、加藤外科医院で同年一一月四日に初めて撮つたレントゲン写真によると、腰椎正側、椎骨に変形が認められたが、右は本件事故とは関係のないものであつた。

(三) 反訴原告は、加藤外科医院に通院するのと並行して三愛接骨院にも継続的に通院して整体治療等の診療を受けているが、右接骨院の通院は医師の指示によるものではなく、その医学的効果は必ずしも明らかでない。

(四) 鑑定人四方谷弘司は、反訴原告の初診時にみられた腱反射の亢進について、病態的には何ら問題とならないものであるとしている。

以上の各事実を認めることができる。

3  前記認定の各事実に甲一二及び鑑定人の鑑定等を併せて考えると、本件事故によつて反訴原告は全く受傷しなかつたとは断定できないが、事故態様からすると、少なくとも衝突時に反訴原告が受けたであろう衝撃はさほど大きなものではなかつたことが認められ、加えて、事故の三日後に受診した加藤外科医院での初診時の診断、その後の同病院での治療内容とその経過に照らすと、反訴原告が本件事故により受傷したその傷害の程度は比較的軽微なものであつて、遅くとも昭和六二年五月末日頃までには、頸部痛は治療の必要をみない程度にまで治癒ないし軽快し、わずかに腰部の疾患のみが残存するも、右疾患もその後はほとんど医療効果をみないまま、反訴原告の愁訴により漫然と治療が続けられ、症状の改善のないまま同年一二月一五日になつて腰部圧痛、腰の屈伸不十分との後遺障害を残して症状は固定したとの診断を受けたものであつて、右同日まで頻回の通院を必要としたか、治療の必要性と相当性についてはいささか疑問であり、右事情は本件事故と相当因果関係のある損害の算定に当つてはこれを勘酌するを相当とする。

二  反訴原告の損害

1  治療費(請求八八万一四六〇円) 三九万五八二二円

(一) 加藤外科医院関係 三九万五八二二円

甲五の一七、一八、甲五の二二、二三によれば、反訴原告は加藤外科医院における治療費として合計五六万五四六〇円を要したことが認められるところ、前判示のとおり右医院における治療の必要性と相当性についてはいささか疑問があるので、諸般の事情を総合し、その七割をもつて本件事故と相当因果関係のある損害とみるのが相当と考える。

(二) 三愛接骨院関係

三愛接骨院の治療費については、前判示のとおり、医師の指示による通院でなく、かつ、その治療効果も疑問であるので、これを本件事故による損害と認めることはできない。

2  交通費(請求九万三四八〇円) 二万九〇六四円

(一) 加藤外科医院関係 二万九〇六四円

乙一一及び反訴原告本人によれば、反訴原告は、加藤外科医院に通院するための交通費として、合計四万一五二〇円を要したことが認められるところ、前示の理由により、本件事故と相当因果関係にある通院交通費としては右金額の七割をもつて相当と認める。

(二) 三愛接骨院関係

反訴原告は、乙一一によると、三愛接骨院に通院するための交通費として、四万五二四〇円を支出したと認められるが、前判示のとおり、三愛接骨院における治療の必要性を認めることはできないから、右交通費については、本件事故と相当因果関係にある損害と認めることはできない。

3  傷害慰謝料(請求一一〇万円) 八〇万円

傷害の部位、程度とその治療経過を考慮すると、反訴原告の通院期間中の慰謝料は右金額が相当と認める。

4  弁護士費用(請求二〇万円) 一六万円

弁論の全趣旨により、本件事故と相当因果関係ある損害として被告らに求めうる弁護士費用は右金額が相当と認める。

5  後遺障害慰謝料(請求六三万円) 四〇万円

前記後遺障害の内容、程度を考慮すると、反訴原告の後遺障害慰謝料は、右金額が相当と認める。

6  後遺障害逸失利益(請求四三万四四五一円) 二二万二二六六円

鑑定及び弁論の全趣旨によれば、反訴原告の後遺障害は腰部痛であり、その症状は少くとも症状固定後なお一年間は継続し、その間労働能力は五パーセント喪失したものと認められるので、昭和六二年賃金センサス第一巻第一表男子労働者・産業計・企業規模計・学歴計五五~五九歳の平均年収を基礎とし、新ホフマン方式により中間利息を控除して、逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、四三万四四五〇円となる。

四六六万八〇〇〇円×〇・〇五×〇・九五二三=二二万二二六六円 (円未満切捨)

三  原告の損害(特に、営業上の逸失利益)

1  乙一八の一ないし四、乙二〇ないし二三及び反訴原告本人によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 原告は、損害保険代理店である今吉自動車損保事務所の店主であり、原告の父たる反訴原告を使用人として業務を営んでいるものであるが、もともと病弱な体質のため、外廻りの営業活動や事故処理業務は全て反訴原告に任せ、自分は自宅で電話連絡や保険料の帳簿への記帳業務等の補助的事務をしているに過ぎず、代理店での働きは、原告が二割、反訴原告が八割といつた割合であつた。そして、今吉自動車損保事務所の代理店報酬は、そのまま原告を含む反訴原告一家の生活費に充てられており、反訴原告は給料を受けていなかつた。

(二) 反訴原告が本件事故により受傷し、治療のため通院を余儀なくされ、また、痛みのため自動車の運転が制限されたことで、反訴原告による外廻りの営業活動や事故処理業務が制約され、これらが影響して今吉自動車損保事務所の代理店報酬は、昭和六一年が合計五九三万六〇二七円であつたのに対し、昭和六二年は合計九六万八二〇九円に減つた。ところで、右代理店報酬の減少は、その大部分が本件事故による反訴原告の受傷から間接的に生じたものというべきであるが、前記認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、反訴原告は、(イ)病弱な原告に代わつて事務所業務の大半を自己の判断で行なつており(これに対し原告はその補助にすぎない)、実質上の企業主と同視すべき立場にあつたことが認められること、(ロ)保険代理店の外交業務は、業務に関する知識を必要とする等専門性が高く、また、当該地域の事情にも通じていることが要求されるものであり、このことからすれば、経験を有し、実質的に業務の大半を担当していた反訴原告は、他に代替することのできない地位を有していたこと、さらには、(ハ)反訴原告は、一切の給料を受けとつておらず、代理店報酬はそのまま一家の生活費に充てられていたのであるから、今吉自動車損保事務所(及び店主たる原告)と反訴原告は経済的には一体であることの各事実が認められ、これらの事実からすると、反訴原告の受傷による代理店報酬の減少は、本件事故による原告の損害と認めるのが相当である。

しかしながら、既に認定のように、反訴原告は、昭和六二年二月上旬以降は治療・通院時間以外の就労が全く不可能ではなく、また、同年六月以降の通院の必要性にも疑問があるし、原告自身、反訴原告や損保会社から適切な指示を仰ぐなどして減収を防ぐ手段を全く採り得なかつたとは到底考えられない。

2  原告の損害額

(一) 営業上の逸失利益(請求四九六万七八一八円) 一七三万八七三六円

乙一八の一、三及び反訴原告本人によれば、昭和六二年度の代理店報酬は、前年度より四九六万七八一八円減少したことが認められるところ、前判示の理由により、本件事故と相当因果関係にある原告の損害は、その三・五割にあたる一七三万八七三六円(円未満切捨)とみるを相当とする。

(二) 弁護士費用(請求三〇万円) 一五万円

弁論の全趣旨により、本件事故と相当因果関係ある損害として被告らに求めうる弁護士費用は右金額が相当と認める。

第四結論

以上の次第で、反訴原告の請求は、被告らに対し、連帯して二〇〇万七一五二円及びこれに対する本件事故の日である昭和六二年一月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、原告の請求は、被告らに対し、連帯して一八八万八七三六円及びこれに対する本件事故の日である昭和六二年一月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合の遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 大橋英夫)

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